/ «2007-02-28 (Wed) ^ 2007-03-25 (Sun)» ?
   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

Categories Books | Hard | Hardware | Linux | MCU | Misc | Publish | Radio | Repository | Thoughts | Time | UNIX | Writing | プロフィール


2007-03-11 (Sun)

[Thoughts] The Sense of Wonder 一歩先へ進むために

GNU GRUB 開発者である奥地さん(現 Nexedi)から、Magic number 1440 (Heart Beat)に対して、コメントを頂きました。しかも、GNU 開発ツールの宣伝つきで!ありがとうございます。

奥地さんはコメント中で、Sense of wonder を次のように捉えられています。

sense of wonderはヒトの持つ武器だとも言えます。

今いる世界から一歩先に進むための道具です。

sense of wonderがなければ、井の中の蛙です。

武器、一歩先に進むための道具、井の中の蛙・・なるほど。正直、私には考えつかなかった表現ですが、この解釈を読んで、あるスピーチを思い出しました。

President Bush's comment reflected on Columbia

時は2003年2月、スペースシャトル Columbia 号がミッション終了16分前に空中爆発を起こし、7名の宇宙飛行士全員が死亡。以下は、その2日後にブッシュ大統領が NIH (National Institutes of Health)での講演前に話したコメントです(SPACEFLIGHT NOW の Mission Status Center から一部引用)。

Two days ago, America was yet reminded again of the sacrifices made in the name of scientific discovery. The seven brave men and women from the Columbia will be remembered for their achievements, their heroism and their sense of wonder. Our prayers are with their families and their loved ones.

Rachel Carson in the summer of 1960 私には英語圏の人達が "sense of wonder" という言葉に対して、どのようなイメージを喚起するのかは分かりませんが、書籍やネット上での引用などを見ていると、アメリカの教養人は Rachel Carson 女史の名著 The Sense of Wonder を一般常識として知っているようです。

ブッシュ大統領のコメントは、このような背景を踏まえて起草されたのだと思いますが、文章自体は小説家もかなわない超一流の大統領専属ライターの手によるものでしょう。平易にして明快な文章ですが、凄いの一言に尽きます。悲しみと諦め感が漂う国民を前にしての第一文。決して臆することなく、"yet reminded again" で始めるとは、何という勇気!「謹んでお悔やみ申し上げます」という定型文で終わってしまう日本とは、えらい違いです。

ひとつの国家プロジェクトを進める上で決して揺らぐことのない強い覚悟、亡くなった宇宙飛行士とその家族への哀悼と respect が伝わる名文だと思います。respect として文中で用いられた言葉のひとつが "their sense of wonder" ですが、実は私的には今ひとつしっくりこない表現でした。

しかし、奥地さんの解釈を当てはめると、実に良くこの文章の意図を理解できると思うのです。まさに、ドンピシャリ。

Sense of wonder、つくづく深い言葉ですね。

On Writing

このメモを書いている間に、Stephen King 著 On Writing (邦訳 小説作法)の一節が頭をよぎりました。Columbia 号に関する原稿には、King 氏の文章に対する姿勢と相通じるものがあると思います。怪著 On Writing については、また後日ご紹介することにしましょう。