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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2006-06-10 (Sat)

[Thoughts][Books] PC System Architecture Series by MindShare

今回は PDP-11 続編の予定だったのですが、原稿準備の都合上、急遽 MindShare 社にご登場願うことにしました。

Complicated PC architecure

Protected mode software architecture 30年前のミニコンピュータシステム、PDP-11 のアーキテクチャは、先日紹介した "MINICOMPUTER SYSTEMS" をはじめとして、DEC 社のリファレンスマニュアルなど数冊を読み込めば、おおよそ把握することができます。一個人が理解できる分量としては、最適なものでしょう。

ところが、現代の PC アーキテクチャに目を向けると、プロセッサ本体はもちろんのこと、バス・アーキテクチャや周辺デバイスも高度に進化しているため、システム全体を記述するためには軽く10冊を超える分量が必要となってしまいます。

これだけの規模になると、著者側も到底1人では対応できませんし、内容も極めて高度になるため、執筆能力を兼ね備えた優秀なエンジニア複数からなるチームを編成しなければなりません。「そのような Dream team が、この世に存在するのだろうか?」と夢みつつ、日々が過ぎ去ることしばし。

プロテクトモードに関する下調べをしていたある日、資料中に "Protected mode software architecture" という参考文献を見つけました。調べてみると、この本の出版社は Addison Wesley、執筆は MindShare の Tom Shanley 氏。これが私と MindShare 社の最初の出会いです。

Building-block approach

About x86 プロテクトモードプログラミングに関する資料が、世界的に不足している中で、本書は貴重な一冊と言えますが、中身は期待していたほどではありませんでした。解説書というよりは、データシート的な内容です。

しかし、内容以上に私を驚かせたのは、その序文でした。右図を拡大してよくご覧頂きたいのですが、MindShare 社は PC アーキテクチャを解説するため Building-block 方式を採用しており、その基礎に "ISA System Architecure" を置いているというのです。曰く、"The ISA System Architecture is the core book upon which the others build."。ISA とは Industrial Standard Architecture bus の略であり、1981年に発表された IBM-PC の8ビットバスを起源にしたバス規格です。

私は、21世紀のこの時代に、今なお ISA バスの重要性を説く書籍があろうとは、夢にさえ思っていませんでしたから、この序文を読んだ瞬間に相当のショックを受けました。

"全ての応用は基本の延長線上にある" と頭の中では考えていたものの、書籍という形で既に実現している会社が存在したことに、悔しさ半分、嬉しさ半分。直ちに、同社のサイトに飛びました。

We write the books!

驚かされたことに、MindShare 社の本業は Technical writing ではありませんでした。彼らは、世界中のエンジニアを対象に、PC アーキテクチャの超専門教育コースを提供する、インストラクター集団だったのです。執筆書籍は、ISA のような古典から、最新の技術まで多岐にわたっており、ここ数年の間にもタイトル数は増え続けています。教育コースは、書籍よりもさらに充実しており、AMD, Storage, Linux/Windows, 果ては Surface Mount Technology にまで及びます。

書籍の中身がデータシート的であった理由は、恐らくこれらがコースの講義中で補助テキストとして使われるためであり、"おいしいポイント" は講師から生徒へ、直接伝授されるのでしょう。

「この人達の頭の中はどうなっているのだろう?」と訝しく思いながらサイトをチェックしていると、ふと Home の page title が視界に。"MindShare - We Write the Books!" というメッセージを読んだ時、私はすべてを了解できたような気がしました(以前、このメッセージは "Yes, we write the books!" だったように記憶しています)。

彼らは、世界でも数少ない "書ける" エンジニアであり、教育者であったのです。基本を積み重ねることの重要性を書籍と教育で証明してきた彼らの姿に、私は心底尊敬の念を覚えると同時に、自分の考えが決して間違ってはいないことを確信することができました。さらには、具体的な方法論まで授かることができたのです。

それからというもの、日々私なりの Building-blocks を思い描いてきました。MindShare 社のような最新技術へのアプローチは難しいでしょうが、もっと下層のレベルからなら、私にも可能かもしれません。

近日中に、基礎ブロックのひとつをご紹介できると思います。