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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2003-10-13 (Mon)

[Writing] Brainstorming 始動

昨今の出版界は本が売れぬと悲観的だが、私はそうは思わない。「CPUの創りかた」が、2800円という値段にもかかわらず、発売後一瞬にして売り切れた事実を考えてみて欲しい。どれだけの読者が、その本質を理解できているのかは分からないが、彼らが本書がもつ独創性と群を抜いた明快な解説に惹かれたことは、間違いないだろう。

つまり、読者は「本物」を求めているのだ。好い加減な解説や書籍にはほとほと辟易しているのだ。私自身もそうである。CPUの創りかたが、たとえ 28000円であったとしても、喜んで購入していただろう。この本には、それだけの価値がある。実際、これまで購入したまま山のように積まれた論理回路解説書の合計金額は、この金額を遙かに上回るからだ。

今の日本に必要なものは、大学や専門学校ではなく、日本語による優れたリファレンスではなかろうか。当然のことながら、リファレンスが生まれるためには、渡波氏のような卓越したライターの存在が必要不可欠である。

しかし、これまでの歴史を考えると、同氏に匹敵する著者が再来するのはなんと20数年後である。私はもう白髪の翁である・・。あの世に行く前に、少なくともあと10冊ぐらいは、良い本を読みたい。冥土のみやげに持っていきたい。となると、是が非でも優れた若きライター達がスクスクと育ってもらわなければ困る。年寄りはとっても困る。我がニューロンは日々、死滅しているのである。

が、このまま黙っていては、無為に時間が過ぎるばかりである。学校が頼りにならないのは、歴史が証明している。商業誌にも、人を育てるだけの力はない。誰かが行動を起こさない限り、物事は前に向いて進まないということだ。

そんなことを日々考えながら、ふとした思いつきで、昨年夏、旧 skyfree.org 上で、"Brainstorming in Ehime" と題する勉強会の公募を行った。日本全国から、四国の松山市まで駆けつけてくださったのは、選りすぐりの6人。この日のために特別に作成したフロッピーディスク1枚を用いて、第一回は大盛況のうちに幕を閉じた。

参加してくださったのは、もちろん GCCプログラミング工房や、Interface 2002年7月特集号の熱心な読者の方々だったのだが、この会合を通じて、私は日本全国に素晴らしい才能を秘めた人達が溢れていることを知った。

そして、この人達にしかるべきチャンスが与えられ、彼らが著作や次の世代の教育に関わることができれば、「あの世に行くまでに世界に通用する日本生まれのテキストを10冊は読みたい」という願いは、必ずや叶うに違いないと直感した。

人間一人が書ける原稿など、たかがしれている。私が腎虚になるまで書き続けたとしても、カバーできる範囲は微々たるものなのだ。しかし、幸い人間は「社会的動物」である。仲間を増やすことができる。互いに協力し合うことで、新しい大きな仕事を成し遂げることができる。

そんな思いは執筆2年目を迎えた今、ますます強まりつつある。そして本日、その夢の検証の場として Brainstorming を始動させた。果たしてどうなることか・・。