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今日は最後の休日。嫁さんと待ち合わせて、久しぶりに「踊るうどん」を訪れた。数えてみると、10ヵ月ぶりぐらい、いやほとんど1年近い。昨年は毎週のように出かけていたのだが、免停というとっても悲しい事件をきっかけにして、足が遠のいていたのである(うらめしや、高知のオービス)。
昔は知る人ぞ知るお店だったのだが、今では松山一有名なうどん屋さんになってしまった。そう、一ファンとしては「しまった」という表現が正しい。なぜなら、昼過ぎには玉切れ状態となり、それでなくとも短い営業時間(10:30AM~2:30PM)が、さらに短縮されてしまうからである。
今日はそこを見越して、11:30AMにはお店に到着。まだ、店内は半分くらいのお客さん。みんな醤油うどんが運ばれてくるまでの間、黙々と大根をシュッシュッとすりおろしているところが、何やら宗教的儀式のようで面白い。独特の静寂感が漂う、不思議なお店である。
さて、私は醤油うどんの中盛り(もちろん50円増しでスダチ付き、ちなみにデフォルトの薬味は檸檬である。そうそう、大根も当然デフォルトである)、嫁さんは「ひやあつ」を注文。ひやあつの意味が分からない人は、メニューを参照のこと。うどん全般については、讃岐うどんの聖典「恐るべきさぬきうどんシリーズ」を参照されると良いだろう。
このお店はうどんもさることながら、ダシが抜群にうまい。以前、店主の永木さんに「是非このダシだけをメニュー化してちょうだい」と懇願したことがあるのだが、残念ながら実現はされなかった。今時珍しい「うるめ」を贅沢に使った踊るうどんのダシは、この世のものとも思えない旨味を備えている。関東からやって来たお客さんは、このダシを飲んで「何これ、味がしないじゃない」と宣うそうだが、私が店主だったら「あんたら醤油に毒されすぎ、この天然の魚の旨味が分からんのかね!」と小一時間問いつめたい。
冗談はさておき、松山在住の方々は、是非一度同店の「うどん講習会」に参加されると良いだろう。私も娘と一緒に、始めの頃の講習会に参加したことがあるが、この場で出される出来たての「うるめだし」ときたら、口に含むだけで天にも昇る代物である。醤油も何も使っていないのに、このダシはため息が出るほど美しい黄金色を呈している。「最後の晩餐」というコーナーがあるが、私が死にゆく前に最後に口にしたいのは、きっと永木さんのうるめダシだろう。この店に来るたびに思うのだが、ガンの末期の患者さんに、このうるめダシをふるまうことが出来れば、どれだけ多くの人達が喜び、救われることかと。病院で出される流動食というのは、それはそれはひどいものなのだ・・。
ということで、西田家はこのお店を訪れた時は、必ず分担して、醤油うどん、ひやひや、釜玉を注文し、めんとダシを確保するのである。特に、たっぷりの冷えたうるめだしに浮かんだ、うどん(口に含めばまさにぶるぶると踊る、そして心が躍るのだ)は、絶品である。
ただし、このお店には致命的な欠点がある。それは、「ほとんど閉まっている」こと。日曜・月曜日は休み、営業日もピンポイントで出撃しなければ、玉切れの憂き目にあってしまう。また、メジャーになればなるほど、休店日が増えているように見えるのは、私の思い過ごしだろうか?事実、店内には10月の2週間にわたる長期休暇が宣言されていた。聞いてみると「知り合いのお坊さんと一緒に、ミャンマーへ修行に行ってくる」のだそうである。COOOOOOL だ。
で、何が言いたいのかという言うと、永木さんもまた、Torvalds 氏と同じく JUST FOR FUN を体現した人なのだ。むしろ、踊るうどんは、Linux の一歩先を行っているのかもしれない。永木さんは人生を楽しみながらおいしいうどんを打つ。営業時間と休みの多さから分かる通り、同氏は Torvalds 氏と同じく、私利私欲を超越した人だ。お客さんは、彼の打ったうどんとダシに、舌鼓を慣らし、お腹に幸せな感触を残しながら、ありがとうの一言と共に店を後にする。
素晴らしきかな、JUST FOR UDON。
さて、私もうどんとうるめの力を借りて、書籍の原稿を仕上げてしまおう。