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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2004-10-23 (Sat)

[Writing] GCC プログラミング工房休載

休載

UNIX USER 10月号からの "GCC プログラミング工房" 休載は、「書籍執筆に集中する」ため、私から編集長にお願いしたものである。定期購読して頂いている読者の方々には誠に申し訳ないのだけれど、過去の連載を書籍にまとめるにあたり、自分自身の頭の中を、今一度整理し直す必要があると感じたからだ。

連載を続けることは、下調べの手間と時間さえ惜しまなければ、それほど難しいことではない。パズルに例えれば、毎回の連載はジグソーパズルのピースに相当すると言えるだろう。しかし、書籍の場合は違う。著者は読者に対して、ひとつの物語を提供しなければならない。過去36回に及ぶ連載は、個々にはそれなりの内容を備えているとは思うが、彩りは様々であり、すべてを組み合わせたところで、一幅の絵画が出来上がる訳ではない。

さて、毎月の原稿執筆作業から解放されること、実に3年ぶりであるが、この2ヵ月間、PDP-11 や OpenBSD、そして Plan 9 と格闘することで、これから書き上げる作品の全体像と、今後進むべき道がようやく見えてきたような気がする。がむしゃらに走り続けることも大切だが、時には思い切って "breathing space" を取ることも必要だろう。"breathing space"、日本語に訳すと「休息・一服」となってしまうが、本来の意味はちと違う。LONGMAN 曰く、

A short time when you stop doing something difficult, tiring etc.,
so that you have time to think more clearly about a situation or
time to solve a problem.

見事な英訳だ。ちなみに、手元にあるプログレッシブ英和中辞典では、次のようになっている。

(次の活動に備えての)息つく暇、考えたりする機会、休息、一服

思わず「なんじゃこりゃぁ?!」である。"To think more clearly"、"To solve problem" という、積極的な意味合いが日本語では吹き飛んでいる。この和訳から、仕事の合間に青い空を見上げながらタバコの煙を溜め息と共にくゆらす、疲れ切ったサラリーマンの姿を思い浮かべるのは、私だけであろうか?

英英辞典の言葉達が瑞々しく生きているのに対して、日本の英和辞典の言葉達はことごとく死んでいる・・。

そんな事を思いながら LONGMAN を眺めていると、素敵な表現を見つけた。"breath life/excitement/enthusiasm etc. into sth" というものだが、その英訳は次の通り。

To change a situation so that people feel more excited or interested.

将来、"This book will breathe excitement into readers." と評されるような書籍を書き上げたいと思う。

BGM: Kate Bush "Breathing"