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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2004-04-06 (Tue)

[Books] JTAGテストの基礎と応用

本棚に収まった本達を、まるで世界地図でも眺めるように見つめていると、「次はここだ」と耳元で誰かが囁く。この言葉が、二転三転することはしばしばだが、方向性としては意外と誤っていないから不思議だ。

今回「Take me」という熱いラブコールを送ってきたのは、坂巻 佳壽美氏による "JTAGテストの基礎と応用" と題する本。かねてから、JTAG (Joint Test Action Group)という技術には興味があったのだけれど、その実体が掴めず遠巻きに眺めるだけで終わっていた。

本能は、「FPGA の前に、まずは JTAG を片づけろ」と叫んでいるのだが、如何せん何から手を付けて良いのかが分からない。もちろん、JTAG 対応のデバイスには、JTAG ケーブルと関連ツールがセットで販売されているので、これらを使えば「JTAG 体験」は比較的簡単に出来るだろう。しかし、これでは到底エクスタシーの境地には達せないことを、私の心と体は痛いほどに知っている。単なる経験を重ねるのではなく、本質を理解することが何よりも大切なのだ。

ということで、本書に再び目を通す(手に取ったのは一度や二度ではない)。すると、以前は第1章で撃沈されていたのに、不思議と今回は眠くならない。ページがスイスイ進む。そして、運命の第4章へ・・。

本書の白眉は間違いなくこの「第4章」にある。1〜3章では JTAG の概論が語られるが、著者はこの4章で JTAG の本質を最低限のハードウェアとソフトウェア環境で、見事に書き切っている。

ハードウェアとしては、オクタルバッファーの JTAG 版である 74BCT8244 を2個利用し、JTAG の基本を理解するための工夫を凝らした簡単な回路が用意されている。もちろん、これだけでは絵に描いた餅に過ぎず、ホストPCからの制御が必要だ。しかし、こちらもパラレルポートの BUSY, STROBE, D0, D1 ピンをプログラムし、それぞれ TDO, TCK, TDI, TMS 信号をエミュレーションすることで、JTAG 制御を実現するのである。

なんという素晴らしさだ!未知の領域を、自らの五感と思考を頼りに制覇する。そんな、フロンティア精神がこの第4章には溢れている。これを "Ecstasy" と呼ばずして何と言おう。

本書は 2003年3月の時点で、第3版を重ねている。この手の書籍としてヒット作であることは間違いないだろうが、もっと評価されてしかるべきだろう。

なぜ、これほどの名著が「凡書の山」に埋もれ、本来読まれるべき人達に届くことなく終わってしまうのか?返す返すも残念でならない。