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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2003-10-25 (Sat)

[Thoughts] GBA 北欧の教育現場で活躍す

日頃、ネット上で情報検索を続けていると、日本と海外における教育現場の違いに考えさせられることが多い。最近、北欧の教育現場において活躍する GBA 情報をいくつか発見したので、紹介しておこう。

まず最初は、スウェーデン・Halmstad 大学に通う学生お二人さんの登場である。Lysek, Persson の二人は、大学内の "Degree Project in Computer Systems Engineering" というプロジェクトにおいて、GBA 向けの ATA/ATAPI インターフェース GBA-CD を開発した。回路図の前に佇む彼らは、良い面構えをしている。見たところまだ若いのに大したものだが、このプロジェクトを積極的に応援した Halmstad 大学の対応にも感心させられる。大学からは、彼らのためにしかるべき予算が付いたと思われるが、このようなことが果たして日本の大学で可能だろうか?

そのようなことを考えながら Net cruising を楽しんでいると、偶然 Cypress の PSoC チップを使ったデザインコンテストの中に、「Educating Mario」という受賞作品を見つけた。これは、スイスの Nathan 氏が教育現場向けに開発したPCと GBA の通信モジュールである(いわゆるブートケーブル)。機能的には USB ブートケーブルには劣るが、その開発精神には目を見張るものがある。曰く、

  • How the project got started
We specialize in non-game applications for Nintendo Game Boy.
Our products have been well received in Academic and Research
markets, and we were asked to design a product for Middle and
High school students.

通常、この手のケーブル販売は「ROM 吸い出し」を目的にしたゲームオタク向けに行われているが、著者が目指しているのは非ゲーム環境、すなわち "Academic markets" である。海外には、大学生のみならず、高校生まで念頭に置いた教育市場が存在し、彼らのためにより魅力的な教材を開発している訳だ。著者は次のようにも述べている。

  • Why GBA?
GBA is an inexpensive, pocket size device, with color screen and full sound facilities.
Sales of GBC (Game Boy Color) exceeded 1 million units a month,
and GBA is expected to equal this performance.
Its robustness rivals that of military grade equipment.
All this at a price any student can afford.

GBA の堅牢さを軍用レベルだと表現しているのには参ったが、最後の一文は重要である。海外の優れた企業は、どの社も必ずこの視点を持っているし、実行している。翻って、我が日本はどうだろうか?

最後に、本日発見した超弩級のサイトを紹介。元々は、Rickard Gunee 氏の手になる PlayMobile が、きっかけだった。これは、同氏の修士論文(Master thesis)であり、GBA に Bluetooth module を接続し、無線通信を可能にしたものだ。100ページに及ぶ論文は立派なものであり、Supervisor として Lund 大学の教官はもとより、Ericsson 社の技術者まで加わっている点が目を引く。彼は、論文の序文の中で次のように述べている。

During this project we enhanced our engineering knowledge as we developed an entire concept
prototype from scratch, which meant that we had to solve many problems, ranging from hardware
development to writing software applications.

The people at Ericsson were very helpful and we would like thank everyone that helped us
to make this project a success.

First we would like to thank our supervisors at Ericsson, Magnus Hollstrom and
Anders Borgstrom, for giving us the opportunity to do such an interesting project and
giving us the trust to manage the project by ourselves.

We also would like to thank our supervisor at the University of Lund, Jan Eric Larsson,
for helping us with the report and presentation.

企業と大学が GBA という優れた素材を使った研究に、全面的に協力していることが分かる。このプロジェクトの中では、学生に主体性を持たせることが最優先され、問題は自力で解決するよう求められる。一方で、大学は徹底した writing と presentation の指導を行う。

この指導がいかに優れたものであったかは、彼の修士論文、そして彼のサイトが持つ卓越した内容から窺い知ることができる(サイトの内容については、余りにも凄いのでまた後日)。

最後に一言。GBA が教育現場で教材として用いられているという話を、私はまだ日本のネット上で見かけたことがない。少し目先が利いた教官であれば、GBA が5万円以上もする高価な組み込みボードよりも、遙かに優れた教材であることは、容易に分かるであろうに・・。