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   西田 亙の本:GNU 開発ツール -- hello.c から a.out が誕生するまで --

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2004-07-01 (Thu)

[Linux] Goodbye, Linux.

Turning point

気が付いてみると、またまた2ヵ月近くのブランク。本業が忙しかったせいもあるが、最大の原因は「Linuxに愛想が尽きた」ことにある。詳細については、今月のGCCプログラミング工房中でそれとなく触れている。

確かに Linux kernel が世界に果たした功績は大きいが、開発者である Linus Torvalds 氏らが日々生産している負債から目を背けることは出来ない。彼らの多くは、ひたすらコードを書き連ねるだけであり、しかるべき解説文書を残していない。驚くべきことだが、Linux システムコールの man ファイルですら、正式に整備されたものはこの世に存在しないのである。

負債の返済は誰が負担するかと言えば、これは私達末端ユーザーである。連載中で紹介している 2.6 カーネルにおけるモジュール構造の変更についても、当事者である Russell 氏はなにひとつ文書を作成していない。彼は自分が加えたシステムコールの修正・削除により、一体どれだけのプログラマーが混乱に陥り、無駄な時間を浪費することになるのか、考えたことはあるのだろうか?彼が、適切な文書をひとつ書くだけで、今回の大混乱は避けられたはずである。

このように、Linux kernel hackers は総じてユーザーに対する「思いやり」に欠けている。「説明責任」を放棄しているとも言えるだろう。ライターの立場からすれば、「説明を肩代わり」すれば仕事になる訳だが、自分の貴重な時間を Nerds の気まぐれに費やしているのかと思うと、ホトホト悲しくなってくる。

ということで、これを機会に Linux からは少し離れることにした。世の中には、Linux 以外にも魅力的なテーマが溢れている。自分自身、そして読者の方々の限られた時間は、大切に使わなければならない。

IBM developerWorks

不思議なことに、上に述べたような Linux kernel が抱える致命的な問題が、雑誌やネットで話題に上ることはあまりないようである。「自分の頭がおかしいんとちゃうやろか?」と思うこともあったが、どうやら IBM は私に近いスタンスで Linux を捉えているようだ。

developerWorks 中に用意された Linux コーナーをご存じの方も多いと思うが、このサイトを有名な The Linux Documentation Project と比較してみてほしい。

掲載されている文書の質を見比べれば、両者には月とスッポン、大人と赤子ほどの差異がある。ほとんどゴミの山と化している LDP に対して、developerWorks に掲載されている文書は世界中に散らばった現役の IBM 社員が作成しており、一般商業誌の記事レベルを遙かに超えるものも多い。

ひとつひとつの文書は、全て Title, Author name, Affiliation, Abstract, Introduction, Text, Conclusion, References を含み、Article としての体裁を整えている。Full-paper と言っても良い構成であり、推敲・添削も含め、作成にはかなりの時間が割かれていると思われる。

IBM が一体どういう考えの基に、このプロジェクトを推し進めているのか、大変興味あるところだが、一部邪推してみると

  • 文書作成能力に欠ける Linux community を憂うと共に、その行く末に危機感をもったのか?
  • 社員の Writing 能力を磨くため、はたまた優秀な人材発掘の場として捉えているのか?(投票システムの存在は、どうもそれ臭い)

いずれにせよ、これらの文書群の行間から伝わってくるのは、著者達の Professional としての誇りと責任感である。内容もさることながら、実名と共にメールアドレス、略歴まで添えている彼らの姿、それをバックアップする IBM の姿勢には、頭が下がる。

Goodbye, Mr Anderson.

Linux の致命的な弱点を思い煩い、IBM エンジニアの男気に刺激されつつ、次のステージに進むことにしよう。さて、ここで The Matrix の一シーンが脳裏をよぎるのは、なぜだろう?

"Goodbye, Mr Anderson." "My name ..... is Neo."